遺産(財産)放棄のメリット・デメリット、相続放棄との違いは?
2024/11/05
「遺産(財産)の放棄」とは、遺産の相続権を持つ人が相続をしない意思を宣言することです。
似ている言葉に「相続放棄」がありますが、意味や手続きの方法はまったく異なります。
本記事では、「遺産(財産)放棄」のメリットやデメリット、「相続放棄」との違いを詳しく説明します。
遺産(財産)放棄とは?
「遺産(財産)放棄」とは、相続権のある人がほかの相続人に「自分は遺産を相続しない」と伝えることを指します。
特に手続きをしたり、決められた期間に申告したりする必要はありません。
あくまで、相続人同士で意思を伝え合い、合意することで有効になります。
また、遺産(財産)放棄をしても一部の財産は受け取るなど相続内容を選択できたり、債務(負債や借金など)は負担しなければならなかったりと、相続人としての権利が完全になくなるわけではありません。
遺産(財産)放棄と相続放棄は意味や手続きが大きく違う
「遺産(財産)放棄」に似た言葉で「相続放棄」がありますが、意味はまったく異なります。
遺産(財産)放棄と相続放棄の主な違いを表で比較したので、ご覧ください。
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それぞれの項目を詳しく解説します。
法的な地位の違い
遺産(財産)放棄はあくまで相続人同士の話し合いでの非公式な取り決めなので、法的には「相続人」として認められます。
一方、相続放棄は公的に「相続人ではない」と認められることを意味します。
つまり、遺産(財産)放棄の場合は相続人としての権利や義務があり、相続放棄は相続人としての権利のすべてを失う点が大きな違いです。
債務負担の違い
債務とは借金やローンなど、亡くなった方が残したマイナスの遺産のことです。
遺産(財産)放棄を行っても、相続人は義務として債務を負担しなければなりません。
相続放棄を選択した場合はそもそも相続人の扱いにならないため、プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐことはありません。
ただし、相続にはすべての権利を引き継がない「相続放棄」以外に、相続したプラスの財産の範囲でマイナスの債務を清算する「限定承認」も選択できます。
亡くなった方に財産だけでなく債務もある程度残っている場合は、司法書士などに相談して最良の方法を選択するのがおすすめです。
公的な手続きの違い
遺産(財産)放棄の手続きは、とくに公的な取り決めや提出書類などがありません。
ほかの相続人と遺産相続について話し合った上で、最終的に作成される「遺産分割協議書」に署名と捺印をする以外、遺産(財産)放棄の手続きとしてするべきことはないのが特徴です。
相続放棄の場合は家庭裁判所への申し立てが必要で、戸籍等の書類を収集・作成する手間や費用もかかります。
手続きの時期の違い
遺産(財産)放棄を宣言する期限は、特に定められていません。
基本的には遺産分割協議の中でほかの相続人に伝えれば、その意思を踏まえた上で話し合いが行われるため、タイミングとしてはスムーズです。
相続放棄の場合は、相続開始を相続人が知った時から3か月以内に手続きをしなければいけません。
遺産(財産)放棄を選択するメリットは4つ
相続放棄と比べて、遺産(財産)放棄を選択するメリットを紹介します。
相続する財産を選べる
遺産(財産)放棄はほかの相続人さえ納得すれば、「一部の財産だけを引き継ぎ、ほかは放棄する」ことも選択できます。
例えば、亡くなった親が所有していた家の権利は放棄して同居していた兄弟に譲り、現金などほかの財産は引き継ぎたい場合に有効です。
家庭裁判所での面倒な手続きが不要
相続放棄や限定承認をする場合は、亡くなった方の住所を管轄する家庭裁判所で手続きを行い、必要書類などを提出しなければいけません。
遺産(財産)放棄には特定の手続きがないため、手間を省きたい場合や公的な証明がなくても相続人同士で話し合って取り決めができるのであれば、便利な方法だと言えます。
期限に細かい決まりがない
相続放棄は相続が発生したことを知ってから3か月以内に手続きしなければならない原則がありますが、遺産(財産)放棄には期限の決まりがないため、焦らずに検討できます。
もし、遺産(財産)放棄を宣言してから気が変わったとしても、撤回が可能なのもポイントです。
ただし、「遺産分割協議書」に署名・捺印した後に遺産(財産)放棄を撤回して相続の権利を主張しても基本的には認められないため、避けるのが賢明です。
相続権が移動しない
遺産(財産)放棄を宣言しても、相続人としての権利そのものは移動しません。
一方、相続放棄をして相続人としての権利自体を失った場合は、相続権がほかの相続人に移動します。
例えば、結婚していない子が亡くなり、第1順位の親に相続権がある場合、親が相続放棄をすると第2順位の兄弟や姉妹に相続する権利が移動します。
相続放棄をして相続権が移動することで、ほかの家族や親せきが相続トラブルに巻き込まれたり、債務まで負担したりする可能性を避けたい場合などに、遺産(財産)放棄を選ぶメリットがあります。
遺産(財産)放棄を選ぶ場合のデメリットや注意点
遺産(財産)放棄を選択する場合に考えられるデメリットや注意点をまとめました。
債務は放棄できない
遺産(財産)放棄は一部の財産だけ受け取れたり、手続きが不要だったりと便利な面もありますが、債務は放棄できません。
遺産(財産)放棄をしても相続人であることは変わりないため、相続の割合に従って債務を引き継がなければならない点に注意が必要です。
遺産分割協議には最後まで参加しなければならない
遺産(財産)放棄を宣言した後でも、相続人全員が出席する義務がある遺産分割協議には最後まで参加する必要があります。
遺産(財産)放棄をする理由が、遺産分割協議に出席するのが面倒な場合や、ほかの相続人や親せきと顔を合わせたくないということであれば、相続放棄を検討するのもおすすめです。
遺産分割協議書に署名するまで公的な証拠がない
遺産(財産)放棄には法的な効力はありません。
相続人同士の話し合いの上で成り立つ取り決めとして、自分以外の相続人が遺産(財産)放棄を宣言したのに途中で気が変わったと撤回しても、断ることはできません。
また、遺産(財産)放棄の意思があってもほかの相続人が納得しなければ認められず、全員が合意できる内容で話し合いを続ける必要があります。
ただし、遺産(財産)放棄した内容で作成された遺産分割協議書に署名・捺印してしまえば、法的拘束力を持つためトラブルを避けられます。
遺産(財産)放棄を選ぶのがおすすめなパターン
遺産(財産)放棄を選ぶのがおすすめなのは、以下に当てはまる場合です。
- 相続する財産の一部だけを放棄したい場合
- 債務返済の必要がない場合
- 相続権がほかの相続人に移動することを避けたい場合
- 相続人全員でスムーズに話し合いができる場合
- 相続放棄の手続きが面倒な場合
遺産(財産)放棄を選択する場合は面倒な手続きや公的な証明がない分、ほかの相続人との関係性や信頼関係も重要になります。
相続放棄と比べて遺産(財産)放棄を選んだ方がメリットがあるのか、よく考えて決定するのがおすすめです。
遺産(財産)放棄は状況に応じて適切に選択しましょう
「遺産(財産)放棄」は、相続人として遺産のすべてや一部を放棄するとほかの相続人に申告することで、面倒な手続きや期限もありません。
ただし、法的には相続人として扱われるため、債務の負担や遺産分割協議への参加などの義務が発生します。
法的に相続人の権利を放棄する「相続放棄」とは意味や手続きが異なるため、それぞれの特徴やメリット・デメリットを理解し、状況によっては司法書士など相続のプロに相談しながら進めるのがおすすめです。
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